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[第97話]
さらばユリア! 
強き男は死しても愛を語らず!!


 仮面を取り、眼下に広がる南斗の都を眺めるユリア。彼女が思い出していたのは、ジュウザが立ち上がってくれた、あの時のことであった。幼馴染であり、兄妹である二人の数年ぶりの再会は、将と五車星という繋がりで実現した。私のためにお前の命が欲しい。その、自らが吐いた暖かさの欠片もない将としての台詞に、ユリアは心を痛めていた。自分のために死地へ赴こうとするそのジュウザに、将ではなく、女として、幼馴染としての言葉をかけようとするユリア。しかし、ジュウザはその言葉を遮った。ユリアに会った瞬間から死を覚悟していたジュウザにとって、そのユリアの言葉は未練を残すことになりかねなかった。ただ無言でユリアの肩をそっと抱いたジュウザは、そのまま背を向け、光の中へと消えていった。そして今、その男の運命を示す星は、最後の瞬きを見せようとしていた。

 ユリアは生きていた。サザンクロスの街で死んだと思われていたユリアは、フドウ達南斗五車星の手によって命を救われていたのであった。

 自らのために再びシンが略奪を続けようとすることに絶望し、ユリアはその身を投げた。しかし、シンが階段を駆け下りた先にあったのは、傷一つ無く横たわるユリアの体であった。海のリハク、トウ、そして山のフドウ。南斗正等血統としてユリアを最後まで守り抜くことを宿命とする彼等五車星が、ユリアを助けたのだ。だが、彼等がサザンクロスへと訪れた本当の目的は別にあった。突如シンに反乱を起こした部下達。その背後には、世紀末覇者拳王の影があった。ケンシロウとシンのどちらが勝利しようと、その後に拳王に勝利することは不可能。もしユリアがケンオウの手に渡り、ユリアが心を開かねば、拳王はユリアを一撃のもとに殺してしまう・・・。それを防ぐため、彼等はこのサザンクロスからユリアを連れ出す目的で現れたのである。そして、偵察へと赴いていたヒューイとシュレンより告げられたのは、その某凶星はもうすぐそこにまで迫っているという現実であった。気を失うユリアの顔を見ながら、暫く思案に暮れるシン。しかし、ユリアの口が、かつての恋人の名を呟いた瞬間、シンは心を決めた。己とケンシロウ。その勝者が再びユリアの前に立つ。その時まで、必ずユリアを守り抜くよう五車の男達に託し、シンは城の中へと帰っていった。愛する女のために、シンが最後にしてやれたこと。それは、ユリア殺しの悪名を自ら被る事であった・・・

 南斗の都へと運ばれたユリアは、南斗最後の将として生まれ変わった。そして今、その南斗の都で、ユリアはケンを待ち続けている。それが、フドウの語った南斗最後の将を廻る謎の全てであった。全てを知ったケンに、もはや迷いは無かった。ユリアが生きていた。それは、ケンを南斗の都へと向けて走らせるには十分すぎる理由であった。

 解亜門天聴による激痛は、ジュウザの脳裏に、ある光景を映し出していた。己の愛した女と、その恋人ケンシロウ。二人が笑顔で旅立とうとしている様を、ジュウザは涙で見つめる。今すぐにでもその女の名を叫んで呼び止めたい。しかし、兄妹という名の残酷な現実がそれを許さない。自らの深い愛と、それを許さぬ宿命。その葛藤の中で号泣するジュウザは、いつのまにか現実の自分の口からも、その女の名を漏らしかけていた。いよいよ口を割るかと、その耳をジュウザの口元へと近づけるラオウ。しかし、ジュウザは口元に笑みを浮かべながらこう呟いた。拳王のクソバカヤロウ、と。ジュウザに最後の意地をもたらしたもの。それは誰にも縛られないという雲のジュウザとしての生き方そのものであった。

 怒りに震えるラオウは、そのままジュウザを放り投げ、渾身の一撃を叩き込もうとする。しかし、血を吹きかけて一瞬の隙を作ったジュウザは、ヒラリとその拳を交わし、立ち上がった。全てが力で思い通りになると思うな。子供の頃・・・あの鳥の卵を廻った時と同じく、自らの性格を指摘されたラオウは、激怒してジュウザに襲いかかる。しかし、瀕死であるはずのジュウザの体に、ラオウの拳は当たらなかった。早く行け、ケンシロウ!もはやジュウザを支えているのは、将に笑顔を取り戻すこと・・・それつまり、五車としての宿命だけであった。

 湧き上がる衝動を抑え、全速力で南斗の都へと駆けるケンシロウ。だが、その行く手に待っていたのは、ラオウが差し向けた大軍勢であった。邪魔する奴は容赦せん!珍しく感情を顕わにし、進路を塞ぐ彼等に向かい、ケンはその拳を振り上げる・・・

 半端な攻撃ではこのジュウザを倒すことは出来ない。そう確信したラオウは、奥義でこの戦いに終止符を打つことを決めた。最後の特攻をかけてきたジュウザに対し、無数の拳を叩き込むラオウ。もはや何故立っているかもわからぬ状態で拳を受け続けたジュウザは、最後に放たれた強烈なアッパーを喰らい、ついに力尽きた。吹き飛ばされ、力なく横たわるジュウザ。勝負の決着を確信したラオウは、ゆっくりと背を向ける。しかし、ラオウの背は、再び蘇った闘気を感じ取った。死んだと思われていたジュウザの体が、再び立ち上がってきたのだ。強烈な頭突き。太陽を背にした跳躍からの攻撃。ここにきて、ジュウザの攻撃は更にキレを増していた。しかしその時、ラオウはある事に気付いた。ゆっくりと自らに歩み寄ってきたジュウザに、その拳を放つラオウ。しかし、ジュウザはその攻撃を全くかわそうとはしなかった。いや、既にジュウザにはその攻撃は見えていなかったのだ。先ほどのラオウの奥技を受けた時、既にジュウザは事切れていたのであった。ジュウザの将を想う心は、死しても尚その体を立ち向かわせたのであった。

 ジュウザの亡骸に、黒王は蹄で土をかけ始めた。ラオウ以外に始めてその背を許した男を、その場に葬ってやろうとしたのである。しかし、ラオウには向かわねばならない所があった。ジュウザのその凄まじい死に様は、ラオウに将の正体を悟らせていた。ジュウザの埋葬を部下達に任せた拳王は、黒王を駆り、再び南斗の都へと向けて走り始めた。五車の男たちが命がけで守ろうとする人間。そして自らが覇権を成す為に必要な人間。そこから導き出されるのはただ一人、ユリアをおいて他に無かった。

 ジュウザの死の報は、いよいよこの南斗の都に運命の時が近付きつつあることをリハクに悟らせた。先に訪れるのが拳王である場合を考え、自らの海の兵団に戦闘配備を整えるよう指揮するリハク。その一方で、ユリアはただじっとその運命の時を待ち続けていた。今も昔も私に出来るのはケンシロウを待ち続けることだけ。そう言ってその瞳を愁いさせるユリアであったが、トウはそれを否定した。貴方には、人に幸せをもたらす不思議な力がある。北斗と南斗が一体となったとき、この乱世は収まり、真の平和が訪れる・・・。ケンシロウと会い、この世に真の平安をもたらすことが、ユリアだけにできる最大の役目なのであった。
放映日:86年12月4日


[漫画版との違い]
・ユリアと、旅立ち前のジュウザとのやりとりのシーン追加
・南斗の都へ向かうケンが、待ち伏せしていた拳王部隊と鉢合わせるシーン追加(戦うシーンは原作にもある)
・南斗の都で、リハクが海の兵団に檄を飛ばしたりするシーン追加
・原作では解亜門天聴解放後直ぐに死ぬが、アニメではその後も暫く戦う。



・ちょっと嬉しい
シンとこの場面、原作では単に攻めてきただけの拳王軍団だが、アニメじゃあバルコムの反乱の背後に拳王が加担していたという設定になっている。こういう過去のアニメオリジナルの設定と結び付けてくれるのがファンにはとても嬉しい。
・はらはら
死にかけのジュウザvs拳王様のシーンは、アニメオリジナルのバトルでは一番力が入る場面だと思う。ケンシロウvsアニメオリジナルの敵のバトルは、やはり結果が知れているのでハラハラ感は正直ない。この死にかけジュウザとの戦いもまあ結果が知れているという点では同じなのだが、その体で果たしてどこまで拳王様を苦しめることが出来るのか、視聴者を引き込む力があった。正直、ジュウザは天才ではあるが、個人的には原作での活躍は物足りなかった。この付け足された分の戦いは、そのジュウザの才も十分堪能できる素晴らしいシーンであったと思う。
・どけー
ユリアさんのもとへ走るケンちゃんの前に雑魚が立ち塞がります。するとケンちゃん
「どけどけどけぇー!!邪魔する奴は容赦せん!どけぇぇぇ〜い!!」
必死だな


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