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[第74話]
地平線を駆ける狼! 
そこは愛と憎しみの果て!!


 天狼星。天空の極星南北二つに割れた時、零れ落ちて天に舞った星。南斗にも北斗にも組せぬその天涯孤独な宿星を持つ男リュウガ。ラオウは、彼が何故自分に忠義を誓ったのか、そして何故今ケンシロウとの闘いを望むのか、解らなかった。狼の目の奥に光る野望は、狼自身にしか知りえなかった。

 ケンとの闘いを許した拳王だったが、その前に拳王はやらねばならないことがあった。それは、自らが居ない間、代わりにリュウガが治めていた地がどうなっているかを確かめることであった。早速ガロウを案内役に、その場へと赴く拳王とリュウガ。その道中、ガロウはリュウガに囁いた。今が好機・・・今拳王を殺れば、拳王の支配地は全てリュウガ様のものに。そのガロウの謀反の意思に、リュウガは不敵な笑みを返しただけだった。

 土を掘り起こし、種をまく。拳王達が訪れたその土地で行われて居たのは、極当たり前の農作業であった。しかし、唯一つ異なっていた点は、その作業を行う者達が、恐怖によって動かされていたことであった。それは、リュウガ自身がラオウから学んだ、恐怖による統治を具現化したものであった。あの日の誓い・・・天狼の星が拳王の前に跪き、忠誠を誓った日から、リュウガは拳王の刃として生きることを決めたのであった。

 盗賊達の略奪を受け、今まさに壊滅を迎えようとしていた村。そこに訪れたのは、未だ孤独の星に生きていた頃のリュウガであった。悪鬼の欲望を剥き出しにさせる腐った時代に、哀しみを覚えるリュウガ。しかし其の時、リュウガにとっての転機が訪れた。世紀末覇者拳王が、この村を支配せんと現れたのである。あっという間に盗賊の一人を屠り、その強さを見せ付ける拳王。村人達、盗賊達をも一瞬にしてひれ伏させたその強さに、リュウガは一つの希望を見出した。時代を統治するにはまず恐怖。拳王という一人の男の強さが、時代を統治できる力を持つことを、リュウガは確信したのである。久方ぶりの出会いの挨拶も早々に、リュウガは躊躇いもなく拳王に頭を垂れ、孤独の星を宿命を変えたのであった。

 とある村に作られた囲い。その中へ入れられていたのは、村の女達数人と、一人の大男であった。目隠しをして適当に走り続ける大男に捕まった女は、男に死ぬまで抱きしめられる。そして囲いの外でそのボスの模様を見て笑う男達。この非道な遊びを思いつき、実行する彼らもまた、腐りきった拳王軍の兵士達であった。しかし、彼らのその遊びは、ケンシロウの登場によって終わりを告げた。非道な悪党たちを北斗神拳で葬ってゆくケン。それに気付かず、未だ女を追い続けていたボスであったが、囲いを飛び出した先で抱きついてしまったのは不幸にもケンシロウであった。目隠しをとった先にあった怒れる男に叩き伏せられるボス。なんとか反撃せんとする拳王舞台は、今度はバイクに跨ってケンを取り囲むが・・・

 リュウガの命令の下、拳王の領土の統治を指揮した男、ギュンター。ガロウの口から彼に告げられたのは、今すぐその領土を拳王配下の兵士達に明渡す事であった。あまりにも不条理なその交代に不快感を表すギュンター。何よりも信じられなかったのは、その命令がリュウガ自身によるものであった事だった。ガロウやギュンターといった彼らは、リュウガが天帝につくために今まで仕えてきたのだ。しかし、部下達のその思いも、リュウガにとっては大きな勘違いに過ぎなかった。天狼は極星を目指す星ではない。拳王恐怖の伝説が伝わり始めた頃、リュウガにその事を痛感させる出来事があった。

 数年前、拳王とリュウガが訪れたのは、異質な村だった。先に到着していた部下達が述べたとおり、その村の人々は何一つ抵抗をしてこない、無抵抗を貫く村であった。食べ物全てを差し出し、笑顔を振り撒く村人達。村にその無抵抗主義を広めたのは、村の長だと名乗り出た老人であった。抵抗は相手の暴力を生む。無抵抗こそが我々に与えられた唯一の武器。それが男の考えた生き延びる術だったのである。だが、不自然に笑う彼らの顔は、拳王を苛立たせた。ならばその武器でこの子供を守ってみよ!捕まえた子供を右手に掲げ、村人達に言い放つ拳王。しかし、それでも子供や村人達は笑っていた。自らの心を捨ててでも笑い続ける事を、彼らは言い聞かされていたのだ。それが決定打だった。意思を放棄した人間は人間にあらず!馬を下り、その村の長に強烈な張り手を食らわせる拳王。長老の顔に、もはや笑いはなかった。恐怖を捨てさせるのは無抵抗ではない、戦うことであることを拳王は教えたのだ。そして、その時リュウガは悟った。自らが極星になれぬこと。そして極星として輝くのは、拳王のような覇道を目指す男であることを。馬を降り、拳王の前に跪いたリュウガは、額のダイアデム(王冠)を差し出すことで、拳王への完全服従を誓ったのであった。

 城へと戻る拳王軍の前に現れたのは、武装したギュンターの部隊であった。主であるリュウガに極星を握らさんと、拳王の命を殺りに来たのだ。しかし、その彼らの行く手を阻んだのは、リュウガ自身であった。自らの心を汲み取れなかった部下達を、リュウガは自分の手で始末をつけたのである。リーダーのギュンターをやられた反乱部隊は、一斉に退散。その行為で、改めて自分への忠誠を表したリュウガに、拳王は旅立ちの許可を与えた。この世を統治できる力を持つ、もうひとつの巨木、ケンシロウ。自らの拳を持ってしてその大きさを計らんとする天狼が、時代のために動き出そうとしていた。

 バイクに乗って襲いかかる敵を、華麗な空中殺法で撃退してゆくケン。そのトリとして現れたのは、並走する二台のバイクだった。その二台の間につながれた巨大な石柱を、ケンにぶちあてようとしたのである。だが、ケンは避けるどころか、強烈な一撃でそれを迎え撃った。見事まっ二つに折れた石柱は、それぞれを繋ぐ鎖の先にある男たちの頭上へと落ちたのであった。その模様を一部始終見ていた夫婦。彼らは、近寄ってきたケンに恐怖するが、幼い彼らの子供だけは違っていた。おぼつかぬ足取りでケンへと近寄ってきたその子供を、優しく撫でるケン。純粋な子供の心は、ケンが悪人でないことを感じていたのだ。その様子を遠くから眺めて居たのは、リュウガとガロウであった。ラオウは子供に恐怖を教え、ケンシロウは子供の無垢な心を捉える。時代はどちらの大木を必要としているのか、リュウガにはまだ見定めることは出来なかった。しかし、時代は急いでいた。この世を治める強烈な巨木。その為ならば、天狼は血に飢えた狼にもなる決意を持っていた。
放映日:86年5月15日


[漫画版との違い]
・無抵抗村、目隠し鬼ごっこ、ケンが石柱をパンチで割って家族を救うシーン以外はほぼアニメオリジナル
・女追いまわして締め上げる遊びをしていた村にきたのは、拳王でなくケンシロウに変更
・アニメでは無抵抗村の村長が殺されずに済む
・原作では家族を救ったケンを見たリュウガは、自らがユリアの兄であることをほのめかすが、アニメではまだ。


・器じゃない
ガロウとかギュンターは、リュウガが天帝につくために仕えてきたらしいのだが・・・天帝につくとはどういう意味だろうか?就く?それとも付く
後者であるなら拳王配下になっている意味がないと思われるので。普通に考えれば前者か。
拳王に仕えたフリをしつつ最後に謀反を起こして天下を取り、天帝になるという・・・。うーん・・・やってることがジャコウと大差ないような気がするなぁソレ。ていうか無理だろ。モノホンの天帝軍に簡単に潰されちゃうぞ。きっとソリア一人で壊滅だ。
・是か非か
やけにみんなこの無抵抗主義の村長を叩くけど、彼は本当に間違っているのだろうか?。当然怒っている理由は拳王様とおんなじことなんだろうけど、拳王様に抗ったって負けるのわかってるんだから、ここはこれで正解だと思うんだが・・・。結果的に、おそらくこの時死んだのは村長だけで、残る村人は全員助かったと思われる。しかし抗っていたら全員死んでいただろう。考え方はともかく、この村長は自分ひとりの命で村人全員を救った偉人なのである。


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