
天狼星。天空の極星南北二つに割れた時、零れ落ちて天に舞った星。南斗にも北斗にも組せぬその天涯孤独な宿星を持つ男リュウガ。ラオウは、彼が何故自分に忠義を誓ったのか、そして何故今ケンシロウとの闘いを望むのか、解らなかった。狼の目の奥に光る野望は、狼自身にしか知りえなかった。
とある村に作られた囲い。その中へ入れられていたのは、村の女達数人と、一人の大男であった。目隠しをして適当に走り続ける大男に捕まった女は、男に死ぬまで抱きしめられる。そして囲いの外でそのボスの模様を見て笑う男達。この非道な遊びを思いつき、実行する彼らもまた、腐りきった拳王軍の兵士達であった。しかし、彼らのその遊びは、ケンシロウの登場によって終わりを告げた。非道な悪党たちを北斗神拳で葬ってゆくケン。それに気付かず、未だ女を追い続けていたボスであったが、囲いを飛び出した先で抱きついてしまったのは不幸にもケンシロウであった。目隠しをとった先にあった怒れる男に叩き伏せられるボス。なんとか反撃せんとする拳王舞台は、今度はバイクに跨ってケンを取り囲むが・・・
数年前、拳王とリュウガが訪れたのは、異質な村だった。先に到着していた部下達が述べたとおり、その村の人々は何一つ抵抗をしてこない、無抵抗を貫く村であった。食べ物全てを差し出し、笑顔を振り撒く村人達。村にその無抵抗主義を広めたのは、村の長だと名乗り出た老人であった。抵抗は相手の暴力を生む。無抵抗こそが我々に与えられた唯一の武器。それが男の考えた生き延びる術だったのである。だが、不自然に笑う彼らの顔は、拳王を苛立たせた。ならばその武器でこの子供を守ってみよ!捕まえた子供を右手に掲げ、村人達に言い放つ拳王。しかし、それでも子供や村人達は笑っていた。自らの心を捨ててでも笑い続ける事を、彼らは言い聞かされていたのだ。それが決定打だった。意思を放棄した人間は人間にあらず!馬を下り、その村の長に強烈な張り手を食らわせる拳王。長老の顔に、もはや笑いはなかった。恐怖を捨てさせるのは無抵抗ではない、戦うことであることを拳王は教えたのだ。そして、その時リュウガは悟った。自らが極星になれぬこと。そして極星として輝くのは、拳王のような覇道を目指す男であることを。馬を降り、拳王の前に跪いたリュウガは、額のダイアデム(王冠)を差し出すことで、拳王への完全服従を誓ったのであった。
バイクに乗って襲いかかる敵を、華麗な空中殺法で撃退してゆくケン。そのトリとして現れたのは、並走する二台のバイクだった。その二台の間につながれた巨大な石柱を、ケンにぶちあてようとしたのである。だが、ケンは避けるどころか、強烈な一撃でそれを迎え撃った。見事まっ二つに折れた石柱は、それぞれを繋ぐ鎖の先にある男たちの頭上へと落ちたのであった。その模様を一部始終見ていた夫婦。彼らは、近寄ってきたケンに恐怖するが、幼い彼らの子供だけは違っていた。おぼつかぬ足取りでケンへと近寄ってきたその子供を、優しく撫でるケン。純粋な子供の心は、ケンが悪人でないことを感じていたのだ。その様子を遠くから眺めて居たのは、リュウガとガロウであった。ラオウは子供に恐怖を教え、ケンシロウは子供の無垢な心を捉える。時代はどちらの大木を必要としているのか、リュウガにはまだ見定めることは出来なかった。しかし、時代は急いでいた。この世を治める強烈な巨木。その為ならば、天狼は血に飢えた狼にもなる決意を持っていた。| [漫画版との違い] ・無抵抗村、目隠し鬼ごっこ、ケンが石柱をパンチで割って家族を救うシーン以外はほぼアニメオリジナル ・女追いまわして締め上げる遊びをしていた村にきたのは、拳王でなくケンシロウに変更 ・アニメでは無抵抗村の村長が殺されずに済む ・原作では家族を救ったケンを見たリュウガは、自らがユリアの兄であることをほのめかすが、アニメではまだ。 |
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