
万人のために生きた男トキ。その男が、今初めてその男を己の願望のために戦っていた。兄ラオウの拳を封じねばならぬという宿命のために・・・。兄と同じ剛の拳を会得させた、トキの拳士としての才能。その天賦の才は、己が剛拳を最大限に引き出す呼法、闘勁呼法までもを身につけさせていた。動と動。全能力、全闘力をかけた二人の拳が、大地を割る・・・
訪れた約束の時。天翔百裂拳のダメージで未だ動けずにいたラオウの体に、トキは止めの一撃を突き入れる。しかし、天が選んだ勝者は、トキではなかった。その突き入れられた腕を掴み、事も無げに体から引き抜くラオウ。ならばと再度拳を放つトキであったが、やはりその指先が秘孔をとらえることはなかった。兄に並んだと思われていたトキの剛拳。だがラオウは、その全てが己に効いてはいない事を告げた。そして、その瞳にはなぜか涙が溢れていた。トキに柔の拳を捨てさせた病。伝承者の座、残された命、そしてこの拳の威力さえも病に奪われた哀しきトキの運命に、ラオウは涙したのだった。さらばトキ!宿命に終止符を打つ剛拳を、トキの体へと叩き込むラオウ。闇夜に舞ったトキの体を、死兆星が照らしていた。
そう言ってラオウは、トキの太股に突かれた秘孔の跡を顕わにした。刹活孔。戦いの前にトキが突いたその秘孔は、一瞬の剛力と共に、自らの命さえ奪う非情の秘孔であった。しかし、そこまでして得た剛拳でも、ラオウの体には通用しないことは、トキ自身が一番よく解っていた。有り余る才能をもちながら、病にすべてを奪われた男トキ。その哀しき男への涙は、かつて、ラオウが剛拳と野望に変えたはずの涙であった。
哀しき宿命に幕を下ろす一撃。トキが目指した兄ラオウの剛拳が、トキに向かって振り下ろされる。しかし、血を吹いたのはラオウの体であった。ラオウはその拳を大地へと突き立てていたのだ。それは、哀しきトキの宿命に対するラオウの恨みの一撃であった。兄を目指した拳士トキから、病と戦う男トキへ。トキの目から溢れ出た涙を、もはやラオウは責めなかった。| [漫画版との違い] ・闘勁呼法で走った地割れを、原作ではラオウは踏み潰す感じだが、アニメでは後ろへ逃げる ・闘勁呼法後の剛拳での殴り合いでのトキの手が、右拳から左拳に。あとパンチでなく点穴を突く形に ・トキとラオウの墓を、ラオウが黒王号に破壊させるシーン追加 ・ラオウが去り際にケンに挑発するのは、黒王号で歩き出して直ぐだが、アニメでは少し離れた岩壁の上から |
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