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[第71話]
暴かれた出生の秘密! 
天はいたずらに悲劇を好む!!


 岩山へと訪れたケン達は、廃墟の側に立てられた4つの墓を目にした。その右側2つの墓前に手を合わせるトキの姿を見て、リンはそれがトキの両親の墓であることを理解した。この地はトキの故郷。ここで生まれ、ここで育ち、そして死ぬときもまたこの地の中へ。その4つの墓の一番左が、トキの入るべき墓であった。そして残るもう一つの墓・・・トキと両親の墓に挟まれるようにして建つその墓について問われたトキは、それが自らの実の兄が入るべき墓であることを告げた。意味深げなそのトキの台詞に、何かを思慮するケン。しかしその時、運命の時を告げる足音は、もう彼等の直ぐ側にまで来ていた。この先の道でバットがみたもの、それは巨大な馬の足跡であった。

 岩壁と崖にはさまれた道。ラオウは、その行き止まりに黒王号を止め、岩山に刻まれた窪みを見ていた。子供の拳で幾度と無く殴られ出来た修行の跡。それを眺めるラオウの目は、どこか懐かしげだった。とその時、黒王号の嘶きと共に、遂にトキ達が姿を現した。父と母が私達兄弟を引き合わせてくれたらしい。トキのその言葉は、自らとラオウが実の兄弟であることを意味していた。

 突如岩壁に向かい、その拳を突き入れるラオウ。その向こうから現れた空洞の中には、幼い子供のための衣服や武器が隠されていた。全て2丁ずつ・・・。それらは、幼少時代のラオウとトキの物だった。あの日、二人揃ってリュウケンの元へ養子に入った日の事は、二人の脳裏に未だ強く焼き付けられていた。

 数十年前。ラオウ、トキの二人は、父と母を失い、リュウケンの所への養子が決まっていた。両親の所で試用した道着や武具。二人は、岩山に作った隠し穴に、それらを封印しようとしていた。激しい修行にくじけそうになったときにはこの道着を見て、自分達が一番強い兄弟であることを思い出せ。それは、強く生きねばならぬ宿命を背負った幼き兄弟の、最後の両親との繋がりであった。

 二人を迎えにきた先代北斗神拳伝承者リュウケン。その男がまず二人に与えたものとは、過酷な試練だった。二人を崖の側へと立たせたリュウケンは、強烈な蹴りで地にヒビを走らせ、崖の先端を崩落させたのである。訳も解らずに崖下へと落ちてゆく二人。その結果、幸い軽傷で済んだラオウに対し、トキの足は巨大な岩に圧し掛かられ、重傷を負ってしまった。何故!そのラオウの怒りの叫びに対し、リュウケンは答えた。私が養子の約束をしたのは一人。二人はいらぬ。才を持つ子を選ぶため、そのためだけにリュウケンは、幼き兄弟に過酷な競争を課したのである。あまりの仕打ちに怒り冷めやらぬラオウ。しかし、そのラオウの背を押したのはトキだった。あの人の子になれば、兄さんが目指していた最強の男になれる。例え自分は養子になれなくとも、兄との誓いを守り、強く生きていける。それは、先程まで泣いていた子の言葉とは思えぬ強い言葉だった。そしてそのトキの強い心は、ラオウにある決断をさせた。

 日が高くなっても、ラオウは登って来なかった。獅子の子とはなかなかおらぬものよ。未だ未熟と判断したラオウに見切りをつけ、立ち去ろうとするリュウケン。しかしその時、ついにラオウが崖の終わりへと手を掛けた。残る全ての力を込めて、その身を崖の上へと引き上げるラオウ。その鬼気迫るラオウの姿を見たリュウケンは驚愕した。ラオウの右手には、気絶したトキの体が抱えられていたのだ。その恐るべき子供は、トキを抱えたまま、片手で崖を登りきったのである。弟と一緒でなくては養子にいかぬ!トキの面倒は俺が見る!共に強くなろうと約束した弟を置き去りにすることなど、ラオウには出来なかったのである。だが、もはやその体力は限界を超えていた。気を失い、再びその身を崖下へと転落させるラオウ。しかしそのラオウの気迫は、リュウケンの要求をも覆してしまっていた。二人の手を掴み、落下を防いだリュウケン。この時、既にリュウケンの眼は、想像を越えるであろうラオウの成長を見ていた。


 遂に始まった兄弟対決。動と静。激しきラオウの拳と、静かなトキの拳。それはまるで、二人の生き方を現しているかのようであった。先に仕掛けたのは、やはり動のラオウだった。ラオウの攻撃を跳躍でかわしたトキは、そのまま顔側面の点穴を狙う。しかしその攻撃を腕一本で防ぎ、残る腕で宙のトキを迎撃しようとするラオウ。だが、華麗なトキの動きは、たとえ無防備な宙にいても易々と捕えられはしなかった。体を捻り、ラオウの腕を軸とし、再びトキはその体を間合いの外へ逃がしたのだった。怯えも迷いも見えないトキの拳。その拳を高めたものを、ラオウは近付く死期だと思っていた。しかし、その本当の理由は、ラオウ自身の存在であった。

 道場にてリュウケンとの修行に励むラオウ。飛び掛るラオウを、事も無げにリュウケンが撃退する。そんな光景が日々延々と繰り返されていた。そしてトキは、扉の影からその様子を見守ることしか出来なかった。

 ようやくその日の修行から解放されたラオウだったが、その身にはもはや体を起こす力すら残されていなかった。しかし、そんな修行の日々の中に置いても、ラオウの心は折れなかった。自らが追い出されればトキまでも追い出される。そしてこれが自らが目指す最強への道であるならば、その傷も痛みもラオウにとっては望むべきものであった。俺はこの世で一番強い男になる。そしてその名を天下に鳴り響かせて見せる。その誇り高き兄の野望は、トキにとって憧れの存在であった。

 ある日の事、トキが川で洗った洗濯物の一つを、ペットの鳥・ココが咥えて持って行ってしまった。ココを追い、草原へと入ったトキが見たもの、それは、ボウガンの矢に貫かれたココの姿であった。犯人は、近くで狩をしていた大男だった。丁度いい的だったから。自らが撃った理由をそう語り、無慈悲にもココの死骸を足蹴にする狩人。その行為は、トキを生まれて初めて本気で怒らせる事になってしまった。男の足を思い切り殴打したトキは、続け様に強烈な蹴りを横っ面へと叩き込む。男の戦意が無くなっても、トキは止まらなかった。馬乗りになり、渾身の力で男の顔面を殴り続けるトキ。やがてその拳は駆けつけたリュウケンによって止められたが、その事件は、その後のトキの人生をも大きく変える事になった。トキの中にも隠されていた、恐るべき拳才。お前も北斗神拳を身につけたいのか。そのリュウケンの問いかけに、トキは迷うことなく頷いた。一子相伝の宿命・・・いずれ兄弟どちらかが拳を封じられることになってもかまわない。トキにその決断をさせた理由はたった一つ、兄を超えたいという一途な願いだった。憧れから目標へ。そんな、自らと同じ熱き血流れる弟に、ラオウは言った。俺が道を誤ったとき。その時はお前の手で俺の拳を封じてくれと。


 幼き日の誓い。それを果たす事こそが、トキに課せられた宿命であった。しかし、病んだトキにとって、その誓いはあまりにも重過ぎた。見事なカウンターで、ラオウの胸に一撃を当てるトキ。繰り出される拳は全てラオウの秘孔を捕えたが、拳王の肉体にはまるで通用しなかった。必殺の間合いに入らねば、トキの柔拳では致命の一撃を突く事は出来なかったのだ。ならばとラオウの剛拳をいなし、上手く背後を取ったトキであったが、次の瞬間、その体に傷を負ったのはトキのほうだった。無想陰殺。無意識無想に繰り出される必殺の拳が、間合いの中のトキを迎撃したのである。剛と柔の戦いに決着は無い。しかし病んだトキの体では、いずれ敗北は必死。兄の全てを目指したはずのトキが、兄と同じ非情の剛の拳を学ばなかった事。そのトキの優しさが、二人の勝敗を分けようとしていた。もはやこの勝負見えた。宿命の戦いに幕を下ろさんと、渾身の力を込めた手刀を振り下ろすラオウ。しかし、トキはその拳を交わさなかった。突き上げた両手を十字に組み、トキはその剛拳を受け止めたのである。それは正しく、兄ラオウと同じ剛の拳であった。兄の全てを目指したトキ。その体の中に流れるラオウと同じ血が、トキに剛の拳をも会得させていたのだった。

 剛に目覚めたトキの体は、もはや病人のそれではなかった。放たれる剛の拳。先程までとは違うその強烈な一撃に、なんとか身を反らせてかわすラオウ。ラオウとの戦い・・・自らにとって最後となるこの時まで、トキはこの拳を使わぬと誓っていた。そして、そのトキの最後の奥の手は、信じられぬ奇跡を起こした。最強の男、拳王。トキの天賦の才は、その無敵の男の頭上にまで死兆星を呼んだのである。北斗二千年の歴史に伝わる言い伝え・・・互角の拳を持つ者相戦う時、その両者の頭上に死兆星輝く。もはや神にすらこの闘いの勝敗は見えなかった。
放映日:86年4月10日


[漫画版との違い]
・原作で岩に刻まれていたのは背比べの跡だが、アニメでは修行の跡(拳痕)
・原作でトキの足にのったのは巨木だが、アニメでは岩に。
・犬のココが鳥(オウム?)にかわっている
・最初の攻防後、原作ではラオウは左手から出血するが、アニメでは無し
・狩人を殴っているトキは、原作では泣いているが、アニメでは泣かず
・最初にトキが当てた拳は、原作では先に仕掛けてだが、アニメではカウンターで当てる
・崖下に落ちたケンをトキが救うという回想シーンが削除



・私はここで生まれ育った
いろんなところでツッこまれているトキのこの発言。こんだけ漫画続けば設定に矛盾の一つや二つ出てくるよホットケや馬鹿野郎と言いたいが、ここはグッとこらえて弁護してみる。
まず
「墓」「生まれ育った」の二つの疑問に分けて考えてみよう。
墓の中に入っているのは誰なのか?実の両親だとした場合、母者の遺体は修羅の国に埋まっているので分骨という事になる。もうひとつは育ての親であるという可能性だ。つまり修羅の国から渡ってきて、リュウケンの門下に入るまでの間に面倒を見てくれた者達の墓であるという可能性。ちょっと苦しいが、二人の口調からすると、父と母はつい最近死んだかのような感じなので否定しきれない。また封印した修行用具も、修羅の国から持ってきたわけではないだろうから、こちら側に渡ってきてから暫くの間、何処かで修行をしていた可能性が高い。それに、実の母のことを拳王様は「母者」と読んでいるのに、このシーンでは「母」だ。別人であるという可能性も捨て切れない。
そして
、「私はここで生まれ育った」発言。これは簡単に説明がつく。というのも、実際言葉どおりと考えればいいからだ。幼いトキが修羅の国で暮らしているシーンはあるが、修羅の国で生まれたというシーン、また幼年期のシーンなどはない。つまり日本で生まれ、3〜.4.歳くらいまで育った後に修羅の国へと渡ったと考えればいいわけだ。実際蒼天の拳により、ケンシロウもそうであることがわかったのだから、トキも同じように日本→修羅→日本と辿ったと考えてもなんら不思議はない。拳王様は修羅の国が故国であるとおっしゃられているが、トキはそんなこと言われてないからね。


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