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[第68話]
悲しき聖帝サウザー!
お前は愛につかれている!!


 サウザーの体に流れる血と鼓動。それが、ケンに帝王の体の謎を解かせた二つの要因であった。そして、そのケンの言葉がハッタリではないことは直ぐに証明された。額に続き、サウザーの右肩までもが、明らかに秘孔による激痛に襲われたのである。心臓の位置が左右逆。そして秘孔の位置も表裏逆。その特異体質こそが、サウザーの体に隠された謎の正体であった。

 生命線ともいえる体の謎を解かれたサウザーだが、彼の帝王としての誇りは未だ死んではいなかった。サウザーには、南斗鳳凰拳という最強の武器が残されていたからだ。跳躍し、シュウの眠る聖碑の上へとたったサウザーは、ゆっくりと両手を体の横へと掲げた。それは、帝王の拳、南斗鳳凰拳には無いはずの"構え"であった。南斗鳳凰拳奥技 天翔十字鳳。自らと対等の敵が現れたとき、帝王自ら虚を捨て立ち向かわねばならぬ、帝王の誇りをかけた不敗の拳。それは、サウザーがケンの力を認め、奥義を尽くしてきた事の証であった。その奥義に対し、ケンもまた奥義で応えた。北斗神拳秘奥技 天破の構え。天の守護神である北斗が、天乱れた時、天をも破るといわれる究極の奥義。その相対する二極星の秘奥義に興奮した天は、二人の頭上に大粒の雹を降らせるのだった。

 己目掛けて無防備に飛んできたサウザーに、渾身の一撃を放つケン。だが拳は虚しく空を切り、かわりにケンの両肩には、サウザーにつけられた傷が血を吹いていた。天翔十字鳳の構えの意味。それは、自らの体を天空に舞う羽根と化し、決して触れられることの無い体となる事だったのだ。再び下方から飛び掛ってきたサウザーを、今度は連撃で迎え撃つがケンだったが、結果は同じ。闘気を纏った鋼鉄の体が、サウザーの拳を軽傷に留まらせてはいたが、拳が当たらぬ限りケンに勝機は訪れるはずも無かった。しかし、トキとラオウだけは、既にこの時ケンシロウの勝利を確信していた。北斗神拳究極奥義、天破の構え。ケンはその"構え"から、まだ"技"に移ってはいなかった。

 再度跳躍したサウザーに向かい、ケンは自らも跳躍して立ち向かう作戦に出た。虚を突かれたのか、流石にケンの攻撃を透かすことができなかったサウザーだが、それでも空中戦ではサウザーに分があった。ケンの激しい攻めを全て受け止めた後、強烈な蹴りでケンを叩き落すサウザー。ダメージこそなかったものの、その攻防は、闘いの流れが己にあることをサウザーに確信させるには十分だった。天に輝く極星は北斗ではなく、将星。北斗の影に怯え、沈黙を強いられてきた南斗の先人達の恨みを晴らすべく、再びその身を舞い上がらせるサウザー。しかしその時、遂にケンは動いた。"構え"から"技"へ。ケンの突き出した手の先から、眩い光が迸る。そして次の瞬間、宙で動きを止めたサウザーの背後で、十字稜の石段が吹っ飛んだ。触れずして、闘気を持って秘孔を突く北斗神拳の奥義、天破活殺。ケンの指先から放たれた闘気の弾は、サウザーの背に、そしてその後にあった十字稜にまでも七つの傷を刻んだのであった。

 たとえ秘孔が表裏逆と解っても、正確に秘孔の位置はわかるまい。背の傷を押し、再び闘おうとするサウザーであったが、既にその帝王の鎧は剥されていた。不死身の体の正体である表裏逆の経絡の流れが、サウザーの体に浮かび上がってきたのである。ケンの天破活殺が、既にサウザーの秘孔を捕えていたのだ。だが、闘気だけでサウザーを倒すことは出来なかった。天空を舞う羽根であるサウザーの体を捕えぬ限り、致命の秘孔を突く事はできない。筋肉で背の傷を塞ぎこみ、それを証明してみせるサウザー。だが、もはやその足は、自らを舞い上がらせることすら出来なくなっていた。ケンが闘気で突いた秘孔は、鳳凰の翼さえも奪い取っていたのだった。しかし、それでもサウザーの帝王としての誇りは折れなかった。退かぬ!!媚びぬ省みぬ!!逃走を許されぬ帝王の意地が、逆立ちからの跳躍という方法で、再びサウザーの体を宙へと舞い上がらせる。残りうる最後の力で、ケンと突きの応酬に挑むサウザー。しかし、激しく交錯する二人の拳は、次第に一方的なものとなっていった。無限に繰り出されるケンの拳が、顕わになったサウザーの秘孔を捕える。そして、最後に突き上げられた拳。それは、苦痛を生まぬ致命の奥義、北斗有情猛翔破であった。

 非道の限りを尽くしたサウザーさえも情で見送ったケンシロウ。最後まで愛のために戦ったその男に、サウザーは問うた。愛や情は悲しみしか生まぬ。なのに何故悲しみや苦しみを背負おうとするのだと。しかし、その理由は、サウザーが捨てた愛の中にこそあった。愛がもたらすのは悲しみや苦しみだけではない。師父に抱かれたあの日のぬくもりこそが、愛がもたらす喜びであることを、サウザーは忘れていたのだった。死にたいところで死ぬがいい。そう言って十字稜を後にするケンの背に、自らの完全敗北を悟るサウザー。師オウガイの側へ向かうその顔には、もはや帝王の影は無かった。もう一度ぬくもりを・・・。誰よりも愛深かった男は、師に抱かれた思い出の中、静かに最後の時を迎えたのであった。

 十字稜の頂から流れ落ちる血。同じ南斗の男の死に、シュウの仁星もまた涙していた。そしてそれに堰を切られたかのように、聖帝十字稜は音を立てて崩れ出した。ケンとサウザーの激闘は、既にこの十字稜全体に大きなヒビを走らせていたのだ。2人の南斗の男の哀しみを背負い、またひとつ強くなったケンシロウ。一人の敵が死に、そして一人の敵の成長を見届けたラオウは、再び覇天への道へと帰っていった。トキとケンシロウ。その二人の敵を倒すため、今自分が為すべき事をラオウは解っていた。

 十字稜から降りてきたケンにかけよるリン、バット、そして村人達。またひとつ時代を拾ったその救世主を、子供達の笑顔が取り囲む。だが、ケンに安息の日など待ってはいなかった。ケンシロウ、トキ、そしてラオウ。北斗の掟に定められた、三人の男の戦いは、もう直ぐ側にまで迫ってきていた。

放映日:86年3月20日


[漫画版との違い]
・二度肩を切られた後の三度目のサウザー跳躍を、ケンも跳躍して迎え撃ち、空中戦に持ち込むシーン追加
・最後のぶつかり合いのとき、闘気の衝撃で周りの建物が崩壊するシーン追加
・有情猛翔破の時、サウザーは何も出来ずに喰らうが、アニメでは多少拳を交錯させた後喰らう
・十字稜から降りてきたケンが、リンや子供達に囲まれるシーン追加



・ものすげえ
北斗の拳では激闘のさなか、その闘気のぶつかり合いでものすごい事が起こります。ケンシロウvs拳王様とか、ハン戦とかも良い例ですね。しかしこのアニメでのサウザー戦いはそれらを凌ぐほどの激しさです。舞台となっている聖帝十字陵にヒビを走らせるのならまだしも、十字稜の周りに立てられている廃墟となった建物までも全壊!!直線距離にして300mはあるんじゃないかというところの建物まで破壊してしまうこの凄まじさ!雹を呼んだのも偶然じゃないのかもしれませんね。でも、ということは、トキがサウザーを倒してたら聖帝十字陵は崩壊しなかったと思う。残念だったね。
・最後の攻撃
原作でのサウザーの最後の攻撃。帝王に逃走は無いのだーって逆立ちしてトリャーグバァァ で、 「うああ!!」・・・なんて無防備なカッコで特攻してるんですかアナタ。まるで秘孔を突いてくれて言わんばかりに。フライングボディプレスじゃないんだから。と、アニメスタッフも思ったのか、アニメじゃあの後激しい拳の応酬があって、ケンが押し切るという形になりました。こういう細かいプラスがアニメのいいところだと思います。マイナス部分も多々あるけど・・・。


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