
十字稜の階段の両脇に配置された子供達は、頂きへと向かう帝王の気に動くことすら出来ないでいた。しかしただ一人、レムだけは覚悟を決めていた。己達を未来を照らす光だと言ってくれたシュウ。そのシュウを殺したサウザーに対し、レムは怒りを抑え切れなくなっていたのだ。自らの立つ段にまで来たサウザーに向かい、隠していたナイフを突き立てるレム。全く意に介していなかったその子供の攻撃は、サウザーといえども避けられるものではなかった。だがサウザーは、レムに手をかけなかった。ゆっくりと右足に突き立てられたナイフを抜くそのサウザーの目にあったのは、呆れみであった。愛や情。それらの感情に振り回されることによって、こんな子供までをが狂わされてしまう。愛ゆえに人は苦しまねばならぬ。愛ゆえに人は悲しまねばならぬ。その辛さを一番知っていたのは、このサウザー自身であった。
捨て子であったサウザーを拾ったのは、先代鳳凰拳伝承者オウガイだった。子の無かったオウガイは、サウザーを我が子のように育て、そして自らの拳をサウザーへと伝えていった。一つの技を習得した後そのオウガイに抱かれるぬくもり・・・その喜びを得る為、サウザーもまた驚くべき速さで拳を身につけていった。そしてサウザーが15になったとき、それは起こった。鳳凰拳伝承者への道としてサウザーに与えられた試練、それは襲い掛かってくる敵と目隠をしたままで戦い、勝利するというものであった。サウザーが経験する初めての真剣勝負。だが、結果はサウザーの圧勝に終わった。背後から飛び掛ってくる敵の気配を察知したサウザーは、宙へ逃げると同時に、その胸を十字に切り裂いたのである。確かな手ごたえに勝利を確信し、倒した相手へと近付くサウザー。だが、雷の光が映し出したその男は、師父オウガイの姿であった。南斗鳳凰拳もまた、北斗神拳と同じく一子相伝。伝承者が新たな伝承者に倒されていくのが彼等鳳凰拳伝承者に課せられた宿命だったのだ。オウガイは、サウザーの瞳の中に極星・南斗十字星を見ていた。自らを超え、立派に成長したサウザーに殺されることが、オウガイの本望なのであった。しかし、サウザーの心の傷はあまりにも大きかった。優しかった師父オウガイを自らの手で殺してしまったという事実。それによって背負った哀しみは、これ以上ないほどの苦しみを、サウザーの心に与えたのである。その苦しみから逃げるためにサウザーが選んだ方法。それは、自らが帝王となりて愛を捨てることであった。
愛を捨てたサウザーに目覚めたもの。それが、帝王としての星であった。帝王として愛を否定するために闘うサウザー。その哀しき男にケンがやらねばならないこと、それは自らが愛のために戦い、愛を失ったサウザーの人生に終止符を打つことであった。
だがしかし、間合いの中にいるケンをサウザーが放っておくはずも無かった。強く握られた拳で、ケンの顔面を何度も殴打するサウザー。やはり駄目なのか。その身を鮮血に染め、ゆっくりと階段を転げ落ちたケンの姿は、北斗神拳伝承者の二度目の敗北を意味していた。| [漫画版との違い] ・原作では聖帝正規兵がケンを射ろうとしたのはオウガイの回想の後だが、アニメではレムに刺される前 ・レムがサウザーに突き刺したのが、釘からナイフに変更 ・サウザーのオウガイの呼び方が、お師さんから先生に変更 |
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