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[第53話]
死兆星迫る!!レイ! 
天は残酷に時を刻む!

 秘孔の痛みによって、ダガールは半狂乱と化していた。部下達を手当たり次第に殺し、壁や床をかきむしり続けるダガール。ブルダンの町でケン達がユダに殺されることこそが彼のささやかな復讐であったが・・・

 ケン達の帰りが遅いことに焦りを募らせるバット達。とうとうあと一日になってしまったレイの命を思い、マミヤはうつむいたまま顔を上げることすら出来なくなっていた。だがアイリは兄の気持ちを察していた。レイは、マミヤ達のおかげで人の心を取り戻すことが出来た。だからマミヤのために死ぬことこそがレイの本望であることを、アイリは知っていたのだった。

 死兆星の落ちてくる悪夢に怯えながら、レイは目を覚ました。あまりの苦痛で気絶してしまっていたのだ。時間が惜しいと直ぐに旅立とうとする二人。しかしその時、何者かが放った鉄パイプが二人に向かって飛んできた。ケンが一蹴して叩き落すと、砂煙の向こうから犯人達が登場。鉄パイプの先を鋭利にしただけの頼りない武装で現れた男たちは、どうみてもただの若者達であった。彼らがケン達に求めてきたのは、武器の譲渡であった。こんな時代に武器をもたずに砂漠をうろつくはずが無いと判断したのであるたのだ。武器は無いとのケンの返答を信じず、力任せに奪ってやろうと襲い掛かる男達。当然簡単にあしらわれてしまうが、武器を壊されても彼らは諦めようとはしなかった。しかしその時、一人の男が若者達を制した。彼の名はノバ。ケン達の実力を悟ったノバは、これ以上戦っても無駄だと判断したのである。そしてノバは、仲間達の非礼を詫びた後、改めてケン達に協力をしてもらえないかと頭を下げた。彼らが向かう先は、ケン達と同じ、ブルダンの町であった

 ノバ達は、西のほうにある壊れた大船をねぐらにし、力をあわせて働いていた。だがある日、けたたましいジープの音とともに、ユダの部隊が襲い掛かってきた。通称美女狩り隊と呼ばれる彼らは、ユダのために美女を拐いに来たのである。圧倒的な力の差で次々と村人達を殺し、美女をかき集める美女狩り隊。その手はノバの恋人のランにも及んだ。矢を受けて動けないノバを嘲笑うかのように、ランを含む村の女達は荒野の彼方へと連れ去られたのであった。

 姉、妹、そして恋人を奪われたノバ達は、ユダの元へと送られる前に一度女が集められるというブルダンの町の場所を突き止め、そこへと向かう途中であった。頼りない武器しかない彼等にとって、ケン達の実力は願っても無い戦力だったのである。愛するランを取り戻したい。力のこめられたノバの強い瞳に、ケン達は迷うことなく協力することを決めた。愛する者を取り戻したい気持ち。それはケン自身が一番よく知っていた。

 雷鳴響くブルダンの町に、ノバの村から連れて来られた女達が到着した。美女狩り隊隊長のゴーレムに連れられ、ユダの前へと連行されるラン達。カーテンの向こうのユダの顔には、不敵に笑みが浮かんでいた。

 ブルダンの警護にあたっていた美女狩り隊は、瓦礫の向こうに隠れていたノバ達の姿を発見した。3対6という人数差も関係無く、一気にノバ達を追い詰める美女狩り隊。しかし彼らの背後には更に人数差の関係ない男たちが立っていた。一気に二人を殺したケン達は、残った一人を捕縛。喋らないと頭が破裂するという秘孔 黒結を突いて女達の居場所を聞き出したケン達は、示された宮殿へと向けて歩き出した。美女狩り隊の持っていた剣を手にとったノバ達の顔にも覚悟の表情が浮かんでいた。

 城内の兵を圧倒するケンとレイに、ただただ呆然とするノバ達。そして一行は、遂に女達の捕らわれている部屋へと到着。しかし、そこで待っていたのは、ゴーレム達に刀を突きつけられた女達の姿、そしてカーテンの向こうで微笑を浮かべるユダの姿であった。人質を盾に、武器を捨てるよう要求するゴーレム。しかしノバ達は刀を捨てなかった。もう二度と暴力に屈しない。一度女達を奪われた彼等は、そう誓っていたのである。女を殺せば彼等の怒りがお前たちを襲う。そして俺がお前達を許すわけにはいかん。そう言ってケンが怒りを爆発させた時、既に美女狩り隊の戦意は完全に喪失していた。抱えていた女を次々と解放して次々と逃亡する美女狩り隊。残された隊長ゴーレムは、ヤケクソにでランに刃を振り下ろそうとするが、レイの南斗水鳥拳は一瞬にしてその腕を切断していた。最後はケンの秘孔によってゴーレムは爆死。救い出された女達は、ノバ達と歓喜の再会に沸くのだった

 マミヤのため、そして自分の人生の決着をつけるため、ユダの前へと立つレイ。だが切り裂いたカーテンの向こうにいたユダは、偽者であった。ユダは自分の影武者をブルダンへ送り込んでいたのである。全ては義星を愚かなピエロとして嘲笑うためのユダの作戦であった。怒りに打ち震えるレイは、渾身の力をこめて影武者を斬殺。ユダを呼ぶレイの叫び声だけが、虚しくブルダンの町にこだましていた。

 悶え苦しむダガールの前に、ユダが現れた。ダガールが口を割ることを判っていたユダは、副官にまで嘘をつき、そしてケンの拳を見切るために利用したのである。激怒して襲い掛かってきたダガールに対し、ユダは右手人差し指を目にもとまらぬ速さで振り下ろした。南斗紅鶴拳。その余りにも早い拳から繰り出された衝撃は、ダガールの体を背中から切り裂いたのだった。レイとケンシロウを己の帝国の生贄とする。ユダは間近に迫った己の野望の実現に高笑いを上げる。

 ユダにまんまとはめられたレイ。しかし再会を喜ぶノバとランを見つめるレイの目は優しかった。己の報われない愛のかわりに、こうして一つの愛が実ったことに素直に喜びを感じていたのだ。だが死という現実はもはや直ぐ側にまで迫ってきていた。ユダに一傷も浴びせられない無念の中、再びレイは気を失ったのであった。

放映日:85年11月28日


[漫画版との違い]
・ダガールが狂って部下達を殺すシーンと、ユダに南斗紅鶴拳で殺されるシーン以外は全てアニメオリジナル


・世が世なら万の軍勢を縦横に操る天才軍師ノバ
ノバ達の行動に不審な点がある。それはケン達から武器を奪おうと襲いかかったことだ。どこからどう見てもケン達が武器を持っているようには見えず、持っていないと本人が言っているにもかかわらず襲い掛かるのである。例えケン達が持っていたとしても、外から見て発見できないくらいの小さな武器を奪ってどうしようというのか?刃渡り20センチくらいのナイフよりかは、その手にもってるとんがった鉄パイプのほうが役に立つで、とツッ込みたくなる。だが私は気がついた。これは彼等の策略ではないのか?もしかすると彼等は、最初から二人がケンとレイだと知って襲い掛かったのではないだろうか。たまたま襲い掛かったのがこの最強タッグだというのも偶然としては出来すぎだ。そして目的地が同じブルダンというのも出来すぎだ。そう、彼等は最初からケン達を仲間にする気で襲い掛かり、悲運の戦士を演じて見事作戦を成功させたのである。全てはノバの作ったシナリオであると推測される。まさに天才軍師・・・!
・今回のおはなしの裏に含まれた歴史的事実
今回の話は調べるごとに面白そうなエピソードが隠れていることに気がついた。。まずノバ達は「ノアの方舟」がモデルであることはいうまでも無い。ノバ=ノア。住んでいるのが船。間違いない。そしてノアは、義に生きた男というではないか。なんともピッタリだ。
もうひとつは美女狩り隊の隊長ゴーレム。こっちがまた面白くて、
ゴーレムの術を開発したのはユダヤ教のユダ・ロエヴ・ベン・ベザレルという律法博士なのだ。後に最強のゴーレムを作ったといわれる導師もユダ・ローウェという人物であった。とにかくいろいろとユダという名が絡んでくるのだ。そして初代ゴーレムを作ったほうのユダは、ゴーレムの額に「EMETH(真理・神)」を刻んだのだという。美女狩り隊のほうのゴーレムの額には何が書いてあるか?そう、「UD」だ。つまりユダが神であり、真理であるという意味なのである。


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