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[第38話]
蘭山紅拳! 
時代は悲しい女を生んだ!!


 カサンドラへ向かい旅を続けるケン達。カサンドラのことをマミヤに問われたレイは、己が知っているだけの情報を話し始めた。世紀末覇者 拳王。最強を目指すその男は、数々の拳法家達をカサンドラへと集め、彼等の拳法を我が物にしているのだという。そしてそのままカサンドラへと幽閉された拳法家は、悲痛な叫びを谷へと響かせ、そしていつしかそれは鬼の哭く声へと変わっていった・・・それが哀しきカサンドラの伝説であった。

 その頃、カサンドラの戦士・ターゲルが、また一人拳法家を捕らえてカサンドラへと戻ってきた。捕らえられた男は、妻子の命を守るため、自らの崇山通臂拳の極意書をウイグルへと譲渡。だがウイグルは、彼等を解放しなかった。約束通り命は奪わない代わりに一生このカサンドラで家族と暮らせと言い放ったのだ。子を野に放てば、外の世界に遺恨を残すことになる。だからこのカサンドラの門を潜った者は、皆外に出ることは許されない。それがカサンドラの非情の掟だった。カサンドラ兵に牢獄へと連れていかれる妻子。あまりにも残忍なその規律に怒った男は、衛兵を崇山通臂拳にて倒し、獄長に向けて拳を構える。しかし、男の前に立ちはだかったのは、ターゲルであった。黒掌十字拳と崇山通臂拳。二人の戦いは、黒掌十字拳の圧勝に終わった。4つに切り裂かれた男の死骸が、またひとつ、カサンドラに哀しき伝説を刻んだのであった。

 渓谷を歩くケン達に、9人編成のカサンドラ襲撃隊が襲いかかってきた。いつものように超人的な力で彼等を撃退するケンとレイであったが、レイは、いつもとは違うケンの技の鈍りに気が付いていた。迫り来るトキとの再会が、ケンの心を焦らせていたのである。これからの激しくなる戦闘に備え、気を引き締めるよう忠告するレイ。強敵の言葉にケンは短く頷きを返すが・・・

 ターゲルは襲撃隊の全滅を獄長に報告。ケンシロウの予想以上の強さにターゲルは脅威を感じるが、ウイグルは既に対ケンシロウの秘策を用意していた。ケンシロウの弱点は優しさ。奴の甘さでは、女を殺すことは出来ない。そう考えたウイグルは、女拳士・ベラをケンにぶつけようと考えたのだ。早速ベラを牢から連れ出し、ケン抹殺を命じるウイグル。己の拳を殺人に使いたくない、ベラはそう言って命令を断るが、すでに彼女には選択権は与えられていなかった。奥の部屋から刃物を突きつけられて現れたのは、ベラの母親であった。ウイグルは、命令を無視すれば母親を殺す。そしてもしケンを倒すことが出来れば、蘭山紅拳の秘伝書も返してやろう、との交換条件を持ちかけてきたのだ。自分のことはいい、拳を捨てて女に戻れ、と母はベラを説得するが、ベラには母親を見殺しにする非情さはなかった。亡き父より、女を捨てて蘭山紅拳を次いでくれとの遺言を受けたときからベラとケンシロウの戦いは宿命づけられていたのだった。

 その頃マミヤの村では、クワをもって土を耕すリンの姿があった。どんな食べ物を作るのかと期待を寄せるバット。だがリンは、その畑に花の種を植えることを決めていた。自分が埋めた花が咲くのと、ケンが帰ってくるのとどちらが早いのか、競わせようとしていたのだ。だがそれは、一刻も早くケンに帰ってきてほしいというリンの裏返しの心であった。

 カサンドラへの道中のケン達に、一人の少女が助けを求めてきた。一緒に旅をしていた祖父が、脱水症状に陥ってしまったのだ。ケンシロウの差し出した水でなんとか祖父は息を吹き返したが、次の瞬間、その柔和な空気を切り裂くかのように、女拳士・ベラが現れた。母のため、父の遺言のため、ベラはケンシロウに戦いを挑む。しかし、そのベラの中に宿る哀しさを見抜いたケンには、ベラを攻撃することは出来なかった。一方的に攻め立てるベラ。しかし、彼女の攻撃は虚しく空を切り続ける。とその時、二人の激しい戦いによって、ケンの水筒が弾かれてしまった。遠くに飛ばされ、水がこぼれ出した水筒を見た少女は、貴重な水を守るために水筒へと駆け寄る。しかしすでにそこは戦場の中であった。ベラがケンへと向かって投げたはずの薔薇・・・その軌道上に、少女は立っていたのだ。だが、その薔薇が突き刺さったのは、ケンシロウの腕だった。自らの体を張って、ケンは少女を護ったのだ。戦闘中に他人の命を救うというケンの優しさ。強く、そして優しいその男に、ベラは自らの完全敗北を悟ったのだった。戦意を失ったベラを残し、ケン達は再びカサンドラへと向けて出発した。

 その時、ベラの前に現れたのは、彼女の母親とターゲルの部隊であった。それでいいんだよ。ベラの選択を褒め、娘へと駆け寄ろうとする母親。しかし、その背にはターゲルの刃が突き刺さっていた。ベラがケンを逃がしたことを反逆と見なしたターゲルは、カサンドラの鬼の掟を実行したのだ。女のベラを拳法の伝承者として育てた自分の責を詫びながら、母はベラの腕の中で絶命。怒りと哀しみの中、ベラはターゲルに挑まんとするが・・・

 カサンドラへと向かうケン達に、先程の少女が駆け寄ってきた。ベラの危機をケン達に伝えるため、少女の祖父が彼女を使いに出したのだ。しかし、帰ってきたケン達が見たものは、黒掌十字拳にて切り刻まれたベラの姿であった。非道なターゲルに怒りを爆発させたケンは、雑魚の掃除をレイとマミヤに任せ、ターゲルと対峙。数々の相手を切り刻んだ黒掌十字拳も、次元の違うケンシロウにはまったく効果がなかった。改めて突撃してきたターゲルに対し、ケンは北斗撃墜指を炸裂。秘孔 百会を突かれたターゲルは絶叫と共に爆死。ケンは、自分と同じ一子相伝の宿命に散ったベラに、深く同情するのだった。

 ターゲル敗北の報を伝えられたウイグルは、愚かにもカサンドラへ挑戦しようとするケンシロウを嘲笑する。だがその時、ウイグルを驚かせる知らせが入れられた。それは、ウイグルと同じく弟の到来を予感したトキが、微笑みを浮かべているとの知らせであった。
放映日:85年8月1日


[漫画版との違い]
・崇山通臂拳の男が妻子と共にカサンドラへと連れてこられるところと、トキが微笑を浮かべる以外はほぼアニメオリジナル
・崇山通臂拳の男が捕らえられてくるのは、原作ではトキの回想の中でだが、アニメではケン達が到着する少し前
・極意書を渡したのは、原作では拳王本人だが、アニメではウイグルが一時預かり
崇山通臂拳の男は、原作では牢の中で妻の名を呼びつつ死ぬが、アニメではターゲルに殺される
トキが微笑を浮かべるシーンは、原作では空手家をウイグルが屠った後。


・ベラ
アニメオリジナルの話が極端に少ない第二部。その中においてものすごい異彩を放つ今回。原因はやはりベラだろう。いきなり薔薇咥えた変な女が出てくるインパクトは決して人間砲弾に劣らない。更に深読みをしてしまうと「先代蘭山紅拳伝承者のハゲ親父も薔薇を咥えていたのか」とか「もし拳王様が蘭山紅拳の極意書を見てマスターしていたら、拳王様も薔薇を咥えるのか」とか考えさせられてしまうのだ。魚座のアフロディーテやバンコランじゃないんだから・・・。でも絶対先代伝承者をハゲ親父にしたのはギャップを狙ってのことだね。ハゲである理由が無いしね。ハゲ。
・面白アングル
北斗アニメの格闘シーンは、大体ケンシロウがアップであたあたして、レイがスパスパして、その後別のカットで敵が死んでる、というのが多い。その中において今回カサンドラ襲撃隊と戦っている場面の描き方は、すこし変わっている。二人が闘っている様を、遠目から同じアングルで取り続けているというものだ。監視カメラの位置から取ったような映像で描かれているのである。確かに上半身をアップにしたほうが迫力はあるだろうが、たまにはこういうのも面白い。劇場版では結構見られる手法ゆえに、単純にTVシリーズでやるには手間がかかりすぎて駄目ってことなのだろうね。
・ラブラブミンキーモモ
今回ミンキーモモの偽者が登場しました。
本物→    偽者→


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