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[第101話]
ラオウ倒れ野望果てるか?
しかし天はまたよろめいた!!


 数々の死闘の果てに受けた血がケンシロウの中で脈打ち、それによって得た哀しみが、あらゆる奥技を会得させた。そして、その哀しみが深ければ深いほどケンシロウは強くなる。誰もが体得しえなかった究極奥技、無想転生を会得し、ケンシロウは今、北斗神拳二千年の歴史の中で最強の男となったのだった。しかし、ラオウはそれを認めようとはしなかった。北斗の長兄としての意地、そして己が信じ、貫いてきた生き様がそれを否定していたのだ。だが、ラオウの心は認めずとも、その肉体は敏感に反応していた。最強と謳い、無敵を誇ったはずのその肉体は今、ケンシロウという男を前にして恐怖に震えていたのだ。その時、ラオウの目に映ったのは、ケンの背後に現れたトキの姿だった。トキが無言でラオウに語ったもの、それは、トキが遠き昔、この時が来ることを予見していたあの日のことであった。

 雪の降り積もるある日、北斗神拳の修練場から破門された一人の少年がいた。彼の名はキム。彼もまた北斗神拳の伝承者を目指すべく修行を積んでいたが、悲しいかな、彼には伝承者になりうるだけの才能は備わっていなかった。二度とこの門をくぐることは許さぬ。リュウケンにそう言われ、雪の中へと放り出されるキム。今一度の機会を求めて扉を叩き続けるキムであったが、堅く閉ざされたその門は二度と開きはしなかった。

 打ちひしがれながら、雪降る道を去ろうとするキム。足がもつれ、倒れこんだキムを助け起こしたのは、幼き日のケンシロウであった。だがキムはその行為に憤怒し、ケンシロウの頬をはたいた。資質なき者として追い出されたキムが、才能を認められているケンに情けをかけられることがなによりの屈辱だったからだ。しかし、ケンは何も言わず、再度キムの荷物を拾いあげ手渡した。お元気で。そいうってキムを見つめるケンシロウの眼は、深い哀しみに包まれていた。破門されたのは自分なのに、その己よりも哀しい力を宿すケンシロウの瞳の前に、キムは大粒の涙を止めることはできなかった。

 気の済むまで泣き尽くしたキムの顔は、先程までとは打って変わって晴れやかであった。ありがとうケン。お前と出会えただけでも良かった。そう言ってキムは山を降りていった。その一部始終を崖の上から見つめていたのは、トキ、そしてラオウであった。情けは己の拳を曇らすのみ。ケンの行為は武において邪魔なだけだと罵り、嘲笑うラオウ。だが、トキはそれに異を唱えた。師リュウケンは、他人の哀しみを知る男はそれを力に変えることが出来る。そして自分もそう思う、と。だが、この時から既に覇を目指していたラオウにとって、その考え方は軟弱以外の何者でもなかった。


 他人に情けをかけ、哀しみを背負って生きたケンシロウ。軟弱者と罵ったそのケンシロウに、自分が今こうして恐怖しているという現実を、ラオウは受け入れることが出来なかった。俺に後退は無い。あるのは前進のみ!究極奥技、無想転生すら微にくだかんと、自らの不敗の拳、天将奔烈を繰り出すラオウ。放たれたすさまじい闘気が、ケンシロウを襲う。しかし、後退がないのはケンシロウも同じであった。上着を全て吹き飛ばされ、体中から鮮血がほとばしっても、ケンシロウは正面から天将奔烈を受けきったのだ。互いに持ちうる力を全て出し切っての総力戦。その二人の闘気の激突は、遥か下の階にいるユリアの身を震わせるほどであった。

 いくら攻撃を繰り出しても、無に消え去るケンシロウの体には通じない。そのことを思い知ったラオウは、静かに眼を閉じ、止め処なく放たれていた闘気をその身へと閉じ込めた。それは、命を捨ててでもケンシロウを道連れにせんとするラオウの死をかけた最後の手段であった。溜め込んだ全ての闘気を一気に身に纏い、死を賭した最後の攻撃を放とうとするラオウ。そしてそれを迎え撃つケンシロウ。だが、今まさに二人の最後の拳が放たれようとしたその時、踏み込んだラオウの足元で、なにかが作動した。それは、リハクが仕掛けた最後の仕掛けが発動した音であった。

 リハクが突き倒すようにケンを床へ伏せさせた瞬間、激しい爆音と共に周囲の壁が吹き飛んだ。更に、二人の激しい戦いによって崩れかけていたその床もまた轟音と共に崩れ去り、ラオウの体を飲み込んだ。リハクの最後の仕掛けとは、壁全体に仕掛けられた爆薬で部屋をまるごと吹き飛ばすものだったのだ。巨大な瓦礫と共に遥か下階へと崩落するラオウ。床へと叩きつけられ、そして幾多もの瓦礫に押しつぶされたとあっては、流石のラオウといえども大ダメージは免れなかった。しかし、あるものを眼にした瞬間、その痛みは何処かへと消し飛んでしまった。ラオウが落とされたその部屋は、偶然にもユリアがケンを待っていたあの部屋だったのである。運は我にあり!天はやはりこのラオウを望んでいるのだ!近衛兵達を吹き飛ばし、遂にユリアをその手に抱いたラオウ。崩れ落ちる南斗の城を背に、ラオウは黒王の背に乗って荒野へと消えていったのであった。

 ラオウの攻撃で重傷を負ったユリアの近衛兵達は、最後の希望に頼るかのようにケンとリハクの名を呼び続けいた。この爆発では助からないか、そう思われたとき、粉塵の向こうからリハクを抱えたケンシロウの姿が現れた。しかし、ケンシロウのその眼は、爆発によって負傷し、見えなくなってしまっていた。自分が読み誤ったばかりに・・・。そう言って自らのミスを詫びるリハク。だがケンはそんなリハクの心配をよそに、再びラオウを追うと宣言した。眼が見えずとも戦いつ続けた男、シュウ。彼がケンシロウの中で生きている限り、眼が見えぬということはケンにとってハンデとはなりえなかったのである。手負いの獅子と化し、今や全てを打ち砕く某凶星となろうとしているラオウ。その暴走を止めるため、そして再びユリアをその手に取り戻すため、ケンシロウのまた新たな旅が幕を開けたのだった。
放映日:87年1月8日


[漫画版との違い]
・天将奔烈後の二人の攻防
・ユリアが二人のオーラを感じて震えるシーン



・最後の仕掛け
原作ならわかるんだが、アニメでは罠破られた後にドカンドカン暴れまわるリハク爺。その間にあの最後の仕掛け、発動させることできたんじゃないのか?っていうかあの時おさなけりゃいつ押すんだよ。もしかして波砕拳にちょっと拳王様がビビったの見て「もしかしていけるんちゃうん」とか思ったんじゃなかろうな。


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