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世紀末ザコ伝説(書籍)
2017年9月3日(日)

先日発売された書籍

「北斗の拳 世紀末ザコ伝説」

の感想です。

コアミックス編集です。





9/6から公演される舞台とタイトルが全く同じですね。
そのイベントに合わせて作られたブツって事でしょうか。
ただ舞台に関しては帯の裏側にチョコっと広告が載ってたくらいで、本の内容的には全く関係ありませんでした。


久々の北斗本・・・粟立つわ〜
モブ悪党をひっくるめてザコ呼ばわりするのはあまり好きではないけど、マイナーキャラは好物なので期待していいかも。
早速読んでいきましょう。



冒頭で、全ザコを代表して心の叫びを宣言してくれるのは、カサンドラの銅鑼男
人選のセンスがいい。

「ケンシロウが救世主としての伝説となったのは、その裏で血を撒き散らしてきたザコ達の生き様があったから」だとして、自分たちにももっとピンスポを当てろやハゲというのがその主張内容らしい。


わかった。ではその主張を聞こうじゃないか。



【第1章 ザコの基礎知識】

ザコという存在を俯瞰視点で分析しているコーナー。
ザコが隆盛&衰退した時期や、その切欠となった出来事、日々の行動から生き抜く術や戦闘方法まで、様々な角度からザコという生物の生態を紹介している。


最初のページに載っている、ザコの人口推移チャート表を見て


ああ、バカだ、と思いました。
いや、もちろん良い意味で。
イッちゃってる内容、大好きです。期待が高まる。

ところでこのグラフ、推移としてはほぼ納得いく内容ですけど、ザコの人数が最盛期で1万超というのは少ない気がする。KING軍だけでもそれくらいはいそう。



どの項目もなかなか的を得た内容で、言われてみればそうだな、と改めて納得させられる項目も多い。流石はコアミが直に出している本だ。
中でも「ザコの人生」の項目が面白かった。ザコとしての人生を歩み始めた中で、出会った男が自分より強いか否か、そいつに歯向かうか軍門に下るかなど、ザコはその生を享受するために様々な選択を迫られている・・・。成程、ただ脳みそカラにして暴れまわるザコはしょうもないが、生き抜くために色々と思考を巡らせて所属する軍団やポジション等を試行錯誤するザコの物語とかだったら十分おもしろい話も出来そうだもんな。



しかし・・・この第一章を読み終えた時点で、私は気付いてしまった。

ちょっとこれガチすぎねえかと。

タイトルに偽りなく、本気でザコ語ってやがると。


例えるなら、ちょっと変な大学生が、卒論のテーマに北斗の拳のザコの生態考察を選んで書き上げたかのような・・・途中からネタに走ったり、妄想を振りかざすことも無く、ただひたすら作中のザコの行動を研究するという生真面目さに溢れた内容なのだ。

私も一応「北斗の拳を研究するサイト」を謳ってクソみたいな文章を綴っている人間なので、こういう方向性は大変興味深くはあるのだけれども、流石にここまではやれない。貫き通せる覚悟が無い。書いてる途中にどこかで「これ、他人が読んで面白いか?」と我に返り、適当なところで切り上げて茶化して仕舞いにするというのが私のヘタレスタイルでもあるのだが、この本にはそういう傾向が全く無いのだ。北斗の拳に登場する「ザコ」という生き物を皆様に知って欲しい。ただそれだけを願って書き上げられた、そんな意思を感じる。


凄い・・・いや確かに凄いんだけども

それ需要あるのか?

私ですらちょっと引くこんな内容、他の人が読んで面白いのか・・・?





【第2章 ザコ名勝負列伝】

ザコ達が繰り広げた、特に名勝負でもないバトル内容の紹介。
勝負というか、やられ具合というか・・・。

「牙大王vsデスバトルチャンプ」とか「ラオウ様vs目隠し鬼ごっこ男」といった、バトルと呼ぶのもおこがましい内容を見開き2ページで紹介するという豪胆ぶりが凄い。

そして言うまでも無く、レイvsユダや、ケンシロウvsハンといったような達人同士のバトルには一切触れられていない。

確かにそういうのは、もう味がしなくなる程しがまれてきたので、今更紹介されても・・・という感じではあるが、だからってこんな脇も脇の勝負ばっかり取り扱った内容で大丈夫なのか?本気でこの本売る気あるのか?文章量の凄さから筆者の熱意が伝わってくるだけに、余計心配になる。




【第3章 ザコの行動原理】

ザコ達がとる行動を、パターン別に紹介。
理屈が通じぬ暴論、根拠無き自信、根深い怨讐、卑怯上等といった悪党ならではの行動を解説している。

第一章の内容が予想・考察を含んだレポートだったのに対し、こちらは実際に作中でザコが起こした事例を挙げて紹介している感じ。今までの内容と比べるとまだ一般人が愉しめる内容だと思うが、その代わりにぶっとび具合は薄れてしまった。




【第4章 ザコ紳士録】

組織別にザコキャラを紹介するコーナー。

ウイグルやジャッカルといった各組織の首領の紹介はそこそこに、それ以外の手下達にスポットをあてて紹介するという構成。だいたい5コマ以上登場して、そこそこ印象に残る行動をしたキャラ達は、ほぼ全員掲載されているといってもいい。なので、紹介されているキャラクターの8割くらいは名前が無い。
うーん、やっぱりアホだこの本。




【第5章 声に出して読みたい悪の金言】

名だたるキャラクター達の名台詞を紹介。
その言葉の真意を読み取って、我々の実生活にどのように役立てればよいかをレクチャーしてくれている。

・・・で、その格言にザコが「役立ち度」という形で星をつけている。
流石にやる事がなくなってきたのか、ザコの絡ませ方が無理やりすぎ。




【第6章 ザコが語る真の悪】

ザコ達にとっての悪・・・つまり彼らの命を脅かす天敵達を批判するコーナー。

批判の的にされているのは、ケンシロウ、レイ、ジュウザ、ユリア、バット、アイン、シャチ、
そして何故かジョニー(オアシスのバーテン)。

唯一、トキだけはザコからも聖人扱いされている。どうせ死ぬなら有情拳で死にたいかららしい。そんな事より天翔百拳になってますよ。はいダウト。


この本の中では一番ネタ色が強いコーナーかな。シャチが神聖なる場所(泰聖殿)にカノジョを連れて来た罪で叩かれてるのは流石に笑う。土俵かよ。

ワードセンスも中々で
レイ → シスコン気味の切り裂き極楽鳥
ジュウザ → 無頼気取りの失恋積乱雲

と、酷い渾名をつけられている。
「放尿妨害罪」「飲尿強要罪」とかいうパワーワードも好き。


その他、各軍団からザコを一人ずつ呼んでの座談会コーナーも。
メンバーは、拳王軍のハクオウ、 天帝軍のテートク、ジャッカル一味のタヌキ、 ジャギ一味のメット、アミバ一味のヤブ、コウケツ一族のギュウバ、修羅の国のアシュラの七名。(全て仮名)

上司への不満や仕事内容への愚痴、こだわりの断末魔や、本来のテーマである天敵への批判などが、10ページに渡って繰り広げられている。

真の悪党を決めるトーク内容で、ボルゲを挙げられたときの
「あれはダメだ。陰惨で、悪党としての明るさがない」
という返しが個人的に一番共感できた。




【第7章 断末魔黙示録】

恒例の断末魔紹介だが、流石はザコメイン本。
ただ文字で面白断末魔を紹介するだけでなく、画像はもちろん、その断末魔に対しての解説までついている。画像もただその時の場面を載せているだけでなく、吹き出し内の文字を通常より大きくしてインパクトを出している。

ザコにとって断末魔とは、自らの死に際に打ち上げる花火であり、その印象によってキャラとしての評価が決まる・・・・成程、その通りだ。良い事いう。




【巻末特別付録@ アミバ流拳法概論&拳法大辞典】

アミバが北斗の拳に登場する拳法について教えてくれるコーナー。

とうとうザコ全く関係なくなった。

だからこその「巻末特別付録」なのだろうが・・・



北斗神拳の歴史を解説する「拳法概論」は中々面白そうだと思ったのだが、その中身は「北斗の拳イラスト集 付属ブック」「北斗の拳×蒼天の拳 オフィシャルガイドブック」の中に載っていた文章をミックスさせた内容であった。残念じゃ。

 しかもミックスさせて内容が向上するどころか、むしろ劣化している。

「北斗の拳×蒼天の拳オフィシャルブック」では、タイトル通り北斗と蒼天を取り扱っているので双方の内容が組み込まれているが、今回のは北斗の拳オンリーで、蒼天はほぼ無視されているのだ。



 拳法の基本的な設定自体は生きているが、北斗三家拳の伝承者が「謎」とされていたり、北斗劉家拳=北斗琉拳という設定等がわざわざ削除されているのである。「月氏族」も「月子族」と誤字になって戻ってきている始末。

 またこの上図では、ケンシロウらが伝承していたのが北斗劉家拳であり、もう中国には劉家拳は残っていないようにも見えてしまう。

ついでに北斗琉拳の創始者が「リュウオウ」と断じられている。
なんでここだけいきなりTVアニメ版の設定を入れてきたのか謎だ。


 私も過去に北斗本の制作に携わらせて頂いたので、このようになってしまった理由は解る。同じ作者が描いた、続編とも言うべき作品なのに、許可が無ければ言及することすら許されない、大人の事情という奴だ。だがそんな理由など、我々には関係ない。そこにあるのは、過去のテキストをわざわざ劣化させて掲載したという事実だけ。ふざけんなと言いたい。

・・・ああ、だから「アミバ解説」なのね。


つーかこの解説文、今回の劣化分に限らず、気になる点が多いんですよね。
「核戦争で南斗聖拳は1000派以上から108派まで減少した」
とかね。
南斗六聖拳が皇帝の居城を守る六つの門の衛将だった頃から南斗聖拳は108派だったから、そんなわけないんだよなあ。


その他にも「推測の域を出ないが」と前置きしたした後に「確かな事実である」と書いてあったりとかさ。どないやねんと。


 拳法概論の後には、作中に登場する拳法を全て網羅した拳法大辞典なるものもあるが、これもイラスト集の付属本の内容とまるっきり一緒。新エピに登場した北斗千獄拉気拳が追加されてるのと、参考画像が変わってるくらいかな。


 更には武器・防具・刀剣の紹介もあるが、こちらもイラスト集の最後の頁に載っている通販ネタの画像をそのまま流用したもの。

ただ、先の本で「ショルダーパッド」と表記されていたのが、今回は「肩当」表記になっている点は素晴らしい。これを機に「肩当」呼称が広まって「肩パット」派を絶滅させて欲しい。がんばれ公式。









【巻末特別付録A 拳王軍入団試験】

 試験とな? また北斗の拳クイズをやらされるのかな?と思ったら、なんかよくわからない4択問題が。


(一例)


Q.世紀末において爆弾を炸裂させる適切な方法は何ですか?
 (1)飛行機から落とす
 (2)バイクで踏んづけてみる
 (3)自慢の頭で信管を叩く
 (4)鈍器で信管を叩く


そして横には
バズが不発弾を頭突きする画像。


いやいや・・・答え載せてもうてるやん。
いくらなんでも簡単過ぎるだろ・・・・
答えは(3)の「自分の頭で信管を叩く」ですね。



そんな感じで全ての設問を回答。



結果、全22問中 正解できたのは僅か4問でした。


どうやら
漫画の中で行われたことを選ぶのではなく
ガチの常識チェックだった模様。



なんやねんそれ・・・むしろよく4問正解したな。




続いては拳王軍適性チェック。
こちらは50問中30問がYESだと合格との事。

「老婆に変装するのが上手い」
「無抵抗主義には勝てない」
「あやかりたいと思っている」
とかは解る。
どれも拳王軍が実践、体験したことだからな。

しかし
「暗闇が嫌いである」
「耳が弟に似ている」
「動物をナデナデしたくて仕方がない」
とか全然拳王軍と関係ないやんけ。


ネタコーナーにしてももう少し一貫性を持たせて欲しかったな・・・と思ったのだが、その後にちゃんとそのモヤモヤを吹っ飛ばすオチを用意してくれていたので全て許しました。



以上ですキャップ。



【総括】

 本来なら特集本の中の1コーナー4ページで終わるような内容を、どうにかこうにか本一冊分にまで膨らませたその頑張りは凄い。驚嘆に値する。んが、だからといってそれで面白い内容になったかと言われると話は別。ザコの魅力を最大限に引き出すには至らなかったと感じた。

 個人的に、この本を創るにおいて大きなミスだったと感じたのは、ザコを「ザコという集団」として扱ってしまった事だと思う。我々もザコに興味がない訳ではないのだが、そのザコの中でも好きなザコや興味のないザコもいるわけで、それを一緒くたにして扱われても困るわけよ。椎茸が好き!と言ったら15種類のキノコをミキサーにかけたシチューが出てきたようなものよね。これはこれで美味しいけど椎茸は椎茸、エリンギはエリンギで味わいたかった。

 個々でなくとも、ザコ座談会のコーナーみたいに、軍団別にザコの特色を比べるとかしてら面白かったんじゃないかしら。ただの軍団紹介になってしまう気もするが、別にいいじゃないすかそれで。こんなニッチな本、北斗を相当読み込んでる人しか手にとらないんだからさ、そういう人らのニーズに合わせといたらええねん。「北斗の拳のザコ」とかいう奇抜な素材を扱っといて万人に楽しんでもらおうなんてムシよすぎます。



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