美しさは全てを凌駕すると信じていた。 そしてそれは己に与えられし特権だと思っていた。 あの日までは―――― 南斗六聖拳のひとつ、南斗紅鶴拳。その拳の師が、弟子の一人であるユダに見せたのは、争う二匹の狼であった。一方は美しき白狼。もう一匹は手負いの狼。ユダは、その勝者を美しき狼のほうだと予想するが、戦いは手負いの狼の方が優勢であった。戦いに美意識は関係ない。手負いの獣は恐ろしく、そして勝者のみが美しい。そう師は教えるが、ユダは自らの投石によって戦況を逆転させ、こう語った。美は人の心を動かす力そのもの。ならば力と美を併せ持つ者はこの世の神となりうる存在であると。 ユダの持つ輝きは時を経て閃光となり、その才と野心は多くの者を惹き付け、同時に畏怖を植えつけていった。やがてその強さと智は南斗最強である鳳凰拳をも血に染め、乱世は最も美しきものによって統べられる―――はずであった。しかしあの日、宙を舞うレイの南斗水鳥拳に目を奪われた瞬間、ユダの野望は脆くも崩れ始めたのであった。 南斗水鳥拳と南斗紅鶴拳。六聖拳の伝承者候補同士による組手は、多くの修行者が見守る中で始まった。だがレイは、ユダの攻撃にすぐにその勝負の異変に気付いた。ユダの放つ攻撃には、明らかに模擬試合とは思えぬ殺気が込められていたのである。レイの試合放棄をも受け入れず、執拗に攻撃を続けるユダ。周囲の者達もその異変に気付きながらも、二人の鋭い拳の応酬の間に入ることは到底出来なかった。結局その戦いを止めたのは、やはり同じ六聖拳候補の一人であるシンであった。水を差され、憤りながら闘技場をあとにするユダは、最後のレイの攻撃が自らの首筋に傷を残していたことに気付き、更なる憎しみを募らせるのであった。 数年後、因縁の戦いは決着した。レイの幻影を追っていたユダには、遂に南斗水鳥拳の美しさを越えることはできなかった。本当に美しいと認めたものの前では己は無力となる。故にマミヤにも何もできなかった―――。そう語るユダだが、その光景を見つめるバットやトキは、溢れんばかりに飛び出してくるそのカミングアウトに、ユダというキャラクターの輪郭を見失いかけていたのだった・・・ |
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ユダ |
南斗紅鶴拳伝承者。強さに美しさを併せ持つものこそがこの世の神との信念の下、その拳才と智略で紅鶴拳史上最強の拳士へと成長。いずれは南斗108派を統べる者となるつもりでいたが、レイの美しさに心奪われ、激しい嫉妬を抱いた。その後、レイとの組手の中で本気で命を獲ろうとするも、シンの介入などによって有耶無耶になり、更に憎しみは増長。だが数年後の対決でレイに破れ、己がいつもレイの幻影を追っていたこと、そして本気で美しいと認めてしまったものの前では無力になることを告白し息絶えた。 |
ユダの師 |
ユダの師匠。美しき狼と手負いの狼の戦いをユダに見せ、手負いの獣が持つ力の恐ろしさを教えようとした。しかしユダが美しき狼のほうを助けたため結果は逆転。美しさもまた人の心を動かす強さであり、強さと美しさを兼ね備えたものは世界の神となるモのと言う持論を説かれた。 |
レイ |
南斗水鳥拳の伝承者。飛燕流舞で鷹を切り裂いたその美しい様はユダを魅了し、同時に激しい憎しみを抱かれることとなった。その後、ユダとの組手に臨み、南斗最速の紅鶴拳と戦えることに喜びを感じていたが、ユダの拳に殺気が込められている事に気付き戦いは激化。左目が見える為に苦戦を強いられるが、交錯時に首筋に一傷浴びせることに成功し。直後にシンが割って入ったため肩を借りながら舞台を降りた。 |
シン |
後の南斗孤鷲拳伝承者。殺し合いに発展しそうな程のユダとレイの組手の間に割って入り、ユダの腕を掴んで戦いを制止。今度は己に対しユダから拳を向けられそうになるが、今おまえの拳のクセを見せてもらったと言い返し、引かせた。同時に、レイの甘い性格に、ケンシロウと同じものを感じた。 |
サウザー |
南斗鳳凰拳の伝承者。ユダが描くサクセスストーリーの中では、南斗最強である彼もまたいずれユダの智と武の前に血化粧と化す予定になっていた。 |
白狼 |
美しき毛並みを持った白狼。雪原にて手負いの狼と交戦し、押し込まれたが、ユダの投石によって相手の狼の左目が潰されたため、結果的に救われた。 |
手負いの狼 |
雪原にて美しき白狼と交戦していた狼。右目に傷を負っていたが、その手負いであるが故に白狼を圧倒。だが今一歩のところでユダの投石によって左目を潰されてしまった。 |
次期南斗紅鶴拳伝承者 |
次代の南斗紅鶴拳伝承者になる予定だった男。ユダよりも実力は上であったが、ユダの智略によって訓練中に亡き者にされた。 |
ユダの取り巻き達 |
若き頃のユダの実力に惹かれ集まってきた者達。ユダの才能と野望を羨望のまなざしで見つめると共に、同時に相手を容赦なく叩きのめす残忍さに畏怖を覚えた。後にユダが引き連れることとなる南斗23派の者達ではないかと考えられる。 |
南斗聖拳の訓練生達 |
南斗聖拳の修験場で訓練を受けている者達。六聖拳の拳士であるレイとユダの組手を間近で見学し、途中から異変に気付いたが、二人の拳の鋭さ故に近付くことすらできなかった。 |
リゾ |
南斗聖拳の訓練生の一人。実力者であるレイとユダの組手を間近で見学し、途中から二人が本気の戦いをしている事に気付いたが、二人の拳があまりに鋭いが故に近付くことすらできなかった。 |
ハーン兄弟(バス&ギル) |
後の南斗双鷹拳の伝承者となる兄弟。ユダとレイの組み手を見守る訓練生達の中に紛れ込んでいた。 |
トキ&バット&リン |
マミヤの村でのレイとユダの戦いを見守っていた3名。絶命前に色々とカミングアウトするユダの行動にドキドキしていた。 |
南斗紅鶴拳 | |
ユダが伝承する南斗六聖拳の一つ。次期伝承者候補がユダの智略によって殺されたため、ユダが新たな伝承者候補となり、史上最強の伝承者に。いずれは南斗鳳凰拳をも越え、南斗108派を統べる存在となる予定であったが、レイの美しさに見惚れてしまった瞬間にその野望は瓦解した。 |
伝衝裂波 | |
南斗紅鶴拳の奥義。地を這う真空波を飛ばし、遠方の敵を切り裂く技。レイとの組手の最中に不意打ちのような形で使用し、転倒させた。 |
南斗水鳥拳 | |
レイが伝承する南斗六聖拳の一つ。その美しさに一瞬目を奪われたことがユダのプライドを激しく傷つけ、憎しみの対象となった。ユダの紅鶴拳との組手ではほぼ互角の戦いを繰り広げている。 |
南斗鳳凰拳 | |
南斗最強の拳。ユダの描く野望の中では、この拳の伝承者であるサウザーもいずれユダの武と智によって血化粧に染められる予定となっていた。 |